いじめのこと。⑩

 

Sさんの悩みを聞いていると、適応障害であることは明らかだった。特に28歳とは思えない幼さはすぐに引っかかる。数字もすごく苦手、肩はすぼめっぱなしだし、安心して話すようになるまで様子をうかがうような目線だったし、話すたびに安心するようで表現方法が変化した。英語の発音はすばらしいし、ワーキングホリデイを活用して海外で半年生活できるほどのバイタリティーがあるのに、いつもびくびくしていた。証言通り、相当、厳しい口調を使われていたのは確かだろう。適応障害で怖いのは、耐えることができなくなると、自虐的な思考を増幅させること。自分が悪いんだ、悪いんだと思い込んでしまうことによって震えがくる。Sさんが職場でよく泣いていたというのも、うなずける。

 

ひとの心を物差しで計ることはできない。だからこそ、理解に基ずく配慮が必要なのだろう。あの職場にはそんな理解者がいなかったということも一因かもしれない。